データ事業はマーケティング・サービス事業のコアか。第二弾 Publicisが買収発表した「Epsilon」から考察
マーケティング上での「データ価値」への注目が集まる中、そのデータ事業が「レガシー・データ」と「ネット起点データ」とに二分されている。 全ての事象がネット上でつながる上において、データにおける「リアルとネット」、「軽いデータと、重いデータ」がくっきりと区別されてきているのが現状だ。 WPPがKantarの切り離しを考え、IPGがAcxiomを買収したのに続き、今度はPublicisが「Epsilon」を買収発表した。売却した「Alliance Data」側からその理由を探れば、「データ」の定義へのヒントが浮かぶ。図1:クレジットカードのロイヤルティープログラムを得意とするAlliance Dataの傘下企業であったEpsilonがPublicisに買収された相関図

4,800億円で買うものは、データなのか
4,800億円というM&A規模は、エージェンシー業界では2013年に電通がAegis Groupを当時約4,000億円で買収した規模を上回る。先のIPGによるAcxiom買収は約半分の2,500億円級(23億ドル)だった。電通が2016年にAegis経由で買収したCRM企業のMarkleは約10分の1の480億円(4.26億ドル)のサイズである。 グローバルホールディングスのPublicis首脳が、考えあっての視座で買収したとは言え、「データ」という意味に対する焦りのようなものを強く感じる。百歩譲っても(いくら巨大な売上とデータを誇る企業の買収と言えど)「CRM」という単発(旧態)分野に4,800億円は巨額すぎる。 「2.5億人分の米国消費者の購買履歴を含むオフラインデータを、ファーストパーティー・データとして持つ事になる」と報道するメディアもある。しかしこれは大きな勘違いだ。Epsilon自体はそのデータを活用して自社物販を行わず、そのデータをクライアント(例えばCPG企業)ビジネスのために転売するエージェンシーの立場である。クライアントとの契約には多様であっても、立場としてはサードパーティーに近い。 この買収は広告業界人には過去のPublicisの失敗を思い起こさせる。Publicisはモーリス・レヴィ前CEO時代の2015年2月に、当時のデータ巨人と言われた「Sapient」を当時約4,000億円(37億ドル)で買収した経緯がある。 それ以降のSapientは鳴かず飛ばずどころか、Publicisは傘下の(あの)デジタルエージェンシー「Razorfish」と統合させてしまい(名前をSapient Razorfishと改名し)、さらには「Publicis Sapient」と改名。Publicisは会計上の企業価値も約半分の1,800億円程(15億ドル)を減損処理して、現在に至っている。 ホールディングスとしてのPublicsの企業価値は、Sapientを買収完了した2015年当時から下落の傾向で、2015年2月との比較で現在は約30%減少したままだ。サドーンCEOも「今回はあのような時間の無駄は起こさない」と述べる程のトラウマ的な痛手だった。米企業Epsilonとは、どのような企業概要なのか
Ad Age Datacenterの集計によるEpsilonの基礎データは、下記の通り。 ・2018年のRevenue(粗利)は約2,400億円(21.7億ドル) ・全米CRMエージェンシーランキング2位(1位はDeloitte Digital) ・全米全業態ランキングで第4位 (1位Cognizant、2位Accenture Interactive、3位PwC Digital) テキサス州に本拠を置くAlliance Data Systemsが2004年10月に当時約330億円(3億ドル)であったEpsilonを買収して傘下にしている。2004年当時はYouTubeもFacebookも誕生したばかりで、ソーシャル・ビジネスモデルは皆無の時代である。このタイミングでAlliance DataはCRMとEメールマーケティングを開始したEpsilonを買収している。15年を経た今回の売値が4,800億円(途中の買収加担は後述)、当然その間にキャッシュフローも稼いだ。Alliance Dataのホールディングス目線では、Epsilon売却にあたり「お勤めご苦労さま」と言いたくなる程の、働きぶりである。そんな働き者のEpsilonをAlliance Dataはなぜ売却するのか
図3:上場企業であるAlliance Data Systems の財務諸表