<2018 年 2月、Vol. 39>
★別冊特別レポート:
デジタル・ネイティブなバーティカル・ブランド(DNVB)の躍進
拡大するマーケティング・オフィサーの役割
- 「ライブコマース」と「See-Now-Buy-Now」に追われるファッション産業
- 「トークンネイティブ」のエコノミーに向けて
- 人の心を動かす「ナッジ理論」と、自主性を優先させる「ティール組織」
- 別冊解説:チーフ・ディストリビューション・オフィサー(CDO)という概念
「ライブコマース」と「See-Now-Buy-Now」に追われるファッション産業
2月現在、ニューヨーク・ファッション・ウィーク(NYFW)が開催されている(2018年秋冬)。今まさに開催されている2月と、9月(2019年春夏)の年2回開催されるのが通例であった。しかし2015年1月に、長らく冠スポンサーを務めていたメルセデス・ベンツがNYFWへの参加を取りやめ、2016年頃からは出展参加を辞退するファッションブランドが続々と増えている。あるいはNYFWとは無関係に6月や12月にスケジュールを前倒しして独自のショーを開催するブランドも現れている。年2回のNYFWは、ブランド企業が多額の出展料を払って、「バイヤーとプレス」を引きつける場所としてのマーケティング価値は下がってきている。
アリババがニューヨーク・ファッション・ウィークのスポンサーに
図1: アリババの運営するTmall(天猫)が2017年9月よりニューヨーク・ファッション・ウィークのスポンサーとして登録されている。
sangbe.com, 「In addition to Edison Chen, on his China New York Fashion Week」http://www.sangbe.com/article/268581.html
その一方で中国アリババ傘下の「Tモール(天猫)」がニューヨーク・ファッション・ウィーク(NYFW)のスポンサーとして2017年9月から参加している。(図1)言わずと知れたTモールは中国最大規模の越境EC専門のモール。11月11日の「独身の日」1日で約2.8兆円(2017年)を売り上げ、三越伊勢丹には旗艦店がオープンした。ジャック・マー、アリババ創業者兼会長の目標は、グローバルで20億人へのリーチだ。単なる冠スポンサーであったメルセデス・ベンツとは違い、アリババは実利とビジネスモデルを持って「ニューヨーク・ファッション」のエコシステムに変化を突き付けている。
ニューヨークのファッションとエコシステムの変化
ファッションにおけるオンライン上での情報流通スピードは加速している。ショーでのランウェイで発表されたばかりのファッションは、高額の「ペイド」費により最前列に招待されたモデルやセレブリティーが「インフルエンサー」と化し、ソーシャルを通じてミレニアル世代の消費者に伝えていく。これまでの、NYFWに招待されたバイヤー経由で一流デパートの店頭に商品が6ヶ月後に納品されるような「遅さ」では、陳列された頃にはすでに購買意欲が薄れてしまっているのだ。
この流れにファッションブランドが取り組み始めたのは、コレクション発表時の「即売」である。2015年頃に
「See-Now, Buy-Now (今、見て、今、買う)」販売モデルが登場した。このD2C(Direct to Consumer)販路に、トミー・ヒルフィガーやラルフ・ローレン、バーバリー等の有名ブランドが2016年頃から一斉にシフトし始め、パニックのようなブームとなった。日本でも「東京ガールズコレクション」で既にこの販売モデルが採用されている。2月のNYFWは6ヶ月後の「秋冬モノ」を披露するのが通例だったが、See-Now, Buy-Nowならば2月の寒いニューヨークで発表されたカシミアのセーターが即買いされるサイクルへと転じるだろう。
セレブもVOGUEも百貨店も全て中抜き
ソーシャル全盛になる以前は、ブランド企業はランウェイに「オスカーでドレスを提供したセレブを招待し、そのコネクション度合いを披露すること」が注目を浴びる要素だった。しかし近年は良くも悪くもセレブ達に対する「ホテル、フライト代を含めた招待費用」は、広告費用・ギャラとして扱われ、露出にはペイド表記しなければならず(広告費の透明性が取りざたされ)、現在では「招待相場」が成立してしまったほどだ。
これまでビヨンセのようなハイレベルのセレブリティ(例えば数千万円)が参列することが注目されていた「フロント・ロー」の最前列の席に割り込んで来たのが、ファッションインフルエンサー(インスタグラマー)達だ。今やファッションブランド側は、巨大予算を投じてNYFWに出展・参加してセレブを招待しても、旧来のPRではミレニアル消費者に対するインパクトが薄いことは(若手)デザイナー自身が熟知している。むしろNYFWに参加せずに個展(イベント)を開催し、インフルエンサーを招待して即売が出来れば、コストパフォーマンスからみて効率が良いことが想像できるだろう。ファッション雑誌を中心とした情報流通メディアと、百貨店を中心とした小売流通のパワーの落ち込みへの対抗策とも言える。
See-Now, Buy-Nowの最大の課題は生産ラインと物流
即売というプロダクトの出荷スケジュールを消費者のオンライン心理に合わせて「6ヶ月も」早めることは、既存のリテールサイクルと生産システムが根底からひっくり返る。レガシーブランドの生産ラインのままでは対応できない。緻密に計算されたサプライチェーンで時間短縮を図るためには、生産拠点と流通を購買層の近隣に構築することで効率が良くなるが、これはエコシステムの大転換になる。「バーバリー」の場合はこのサイクルに「乗ったら戻れない」と首脳陣が発言している。
米国の場合、これまでのサプライチェーンは・・・
続きはMAD MANレポートVol.39にて
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