2019年の3月ごろに、東京オリンピック以降のマーケティングがどのように変化していくのかについてのレポートを書いていました。5G×(人口動態+通信サービスの利用動向+その業界の周辺環境の変化)みたいな視点からです。残念ながらオリンピック自体は1年延期との決定がなされましたが、歴史上初となる開催延期にまで追い込んだ新型コロナウイルスの影響は、様々なマーケットにも影響をもたらしています。
そういえばちょうど1年前に書いたこのレポート。あれって使えるのか?ふと思ったのがこの記事を書いてみようと思ったきっかけです。
グラフは当時のレポートから一部抜粋した「日本におけるB2CのEC市場規模」と「市場に対するEC化率(流通額)」を集計したものになります。市場成長率は年々鈍化傾向にはありましたが、それでも8%前後の成長率と高い水準を維持し、市場のEC化率も順調に推移しています。分野別シェアで見ていくと、やや物販系はサービス系に規模は押され気味でしたが、それでもシェア50%以上は物販系でした。内訳のグラフがこちらです。※経済産業省のデータでは物販系、サービス系、デジタル系の3分野で分類されています。
話は元に戻りますが、新型コロナウイルス対策によってソーシャルディスタンスという言葉が今取り上げられています。デジタルが代替えしたことの一つはこのディスタンスです。買い物はもちろん、飲み会や帰省までもがデジタルで代替えされ始めました。確かにこれらは不要不急を避けるための「緊急措置」ではありますが、間違いなく既定路線だったモノ、コトのデジタル化を急激に加速させました。おそらくは今までEC化が進みにくかった物販系市場にも加速する領域があるでしょう。自動車などの大型で高額の商品ですらECで売られるケースが出てきています。ただこれを予測するというにはデータ不足です。今回テーマにしたかったのは物販系の反対側、サービス系やデジタル系分野です。特にデジタル系はまだ10%を上回った程度。デジタル系であるのにEC化しない、この不思議について考えてみたいと思います。
もとより日本のデジタルツールはインバウンドに弱いと思っています。zoomやGoogleハングアウトのように恒常的にビジネスマンが使用するであろうチャットやWeb会議システムといったものでメイドインジャパンをあまり見かけません。一方で営業管理や業務管理といったツールはTVCMでもよく見かけるように多くのメイドインジャパンが存在しています。もちろん管理業務のような各国において独特の商習慣が影響するためでもあるのでしょうが、むしろそれよりも一般的であろうコミュニケーションツールがないのは何故なのでしょう。私が知らないだけでもしかしたらあるのかもしれませんが…
これにはビジネスをECで完結するためのビジネスモデルにそもそもの原因があるように私自身は感じています。日本にある多くのデジタルツールには「まずやってみる」というものがありません。よく営業の方がデモに来社され「まずはやってみると言うことでしたら後日デモアカウントを発行しますよ」なんて話をよく聞きます。これでは「まずやってみる」と言うタイミングを既に逸してしまっています。営業→デモ→アカウント発行、これまでにかかる時間は、確実に必要としている人のタイミングやモチベーションを失うには充分です。その多くはデータの制御や機能の制御のために致し方ないというのが理由なのだとは思いますが。
海外からのデジタルツールにはこの「まずはやってみる」がうまく装置されているケースが多いです。zoomなどであれば40分までは無料、他にもDropbox、Spotifyなどはいわゆるフリーミアムモデルとして紹介されるケースが多いかと思いますが、これらのビジネスモデルの重要なポイントは無料であることよりも実際に使用に足る機能を「まずは使わせてしまう」ことにあるのではないかと私は思います。余談ですが化粧品などでもサンプルが30日なんていうのもありますし、アメリカの化粧品売り場ではイチからそこで化粧をしていく人も多いなんていう話も聞くくらいです。
「まずはやってみる」このシチュエーションの作り方が日本人は下手なんです。技術力や開発力があっても売るための装置作り次第です。もしかしたら政策なんかその最たるものかもしれません。
そして、タイミングの他にもうひとつ重要なファクターがあります。それが機能や用途を売る側が限定してしまわないこと。これはサービスやデジタル分野では特に重要であると思っていて、余計なデモンストレーションやツールの機能制限によって、可能性そのものを閉ざしてしまっていることがよくあります。実はこの「まずはやってみる」という際に利用者がより創造的なシチュエーションであることが重要なのだと思います。我々はこれをDIYと表現することがよくあるのですが、ツールにせよ、サービスにせよ、データにせよ利用者がその方法を考えれば良いのだと思います。
なぜなら多くのインバウンドは全く未知のものではないからです。概ね何かの代替えです。決して悪い意味ではなく、デジタル化によって利便性や有効性を高めた代替えであるわけですから、利用者にとっても創造的に利用できる方が当然ありがたい、私はそう考えます。このタイミングだからこそもう一度ECというセールス方法について考えてみるといいかもしれません。
代表取締役 戸村恵太