広告&マーケティング業界の最新トレンドを紐解く『MAD MANレポート Vol.49』(DI.ニューヨーク発行)

<2018年12月、Vol. 49>

●Walmartはデジタル・ネイティブ・ブランドを40企業、買収宣言
  前編:WPPが出来てなくて、電通が出来ていること。Googleが笑う事。
  後編:マーティン・ソレル新CEOが、水面下で再編するマーケティング組織
●サブスクは「定額」使い放題から、「最低利用額の約束」+都度課金へ
●コネクテッドTVに新しいCM技法=「静止ボタンCM(pause ad)」

 


「Walmartはデジタル・ネイティブ・ブランド40企業を買収宣言」

■バーティカルブランドを買収して「育てる」Walmart
WalmartがDNVB(Digitally Native Vertical Brand)への投資を順調に拡大させている。Walmartは今月6日、世界最大の絵画/写真/ポスターのオンラインショップ「Art.com(アート・ドットコム)」の買収を表明した(買収額明示されず)。1998年創業のArt.comの年間収益は約330億円(3億ドル)以上、総投資額は約62億円(5,620万ドル)なので、数百億円級(1千億円未満)の「定番」投資の様子だ。

Walmartのスローガンは「Everyday Low Price(毎日最安値)」として庶民派の顧客を対象にしていた。それが急に今度はなぜ高級な「アート専門EC」への投資なのか、と思うかもしれないが「壁飾り品EC」と思えば家庭用品の延長である。Art.comでの取扱商品には「絵画」だけでなく、インクジェット・プリンターで印刷されたアートやポスターなどもあり、200種類以上のカスタム・フレーミング・サービスやキャンバス地へのプリント、ラミネート加工などの「One-to-One」サービスが充実している。

 

 

図1:Art.comの壁掛け絵画のシミュレーター機能を持つアプリ
https://itunes.apple.com/us/app/art-com/id1275654918

 

 

 

 

 

Art.comのモバイル・アプリには、「ArtView」というARシミュレーターを持つ(図1)。これはリビング用品を販売する「IKEA」や「HomeDepot」などが、お部屋の内装シミュレーターとして登場させている人気アプリと同じ種類だ。アプリの中で選択したポスターや絵画を自分の部屋の壁に重ねた映像を見ることで雰囲気を楽しめる。

■Walmartの新規顧客獲得と、事業の成長パターン
Walmartは買収完了後もArt.comをそのまま独立したオンライン・ブランドとして成長させる。さらにArt.comの扱い商品を親会社となるWalmart.comやJet.com(が買収したオンライン家具販売のHayneedle.com)でも取扱を拡大する。Walmartの新規事業の「成長(させる)」戦略とは、買収した各DNVBの事業を、Walmartが持つ「資金と流通基盤」を提供することで、DNVBの成長を次の次元に引き上げる事である。

 Walmartは2016年8月にJet.comを約3,600億円(33億ドル)で買収したことを皮切りにに、Eコマースの切れ者といわれるJet.comのマーク・ローリCEOを引き抜き、WalmartのグローバルEコマースのトップとして一任した。ここから一気にDNVBの買収を繰り返しながら、そのDNVBを創業させたCEO達を仲間にして「PayPalマフィア」のごとく「WalmartのECマフィア」を形成している。この戦略はECに限らず、アドテクやマーテクの全てのオンライン事業への投資戦略に通じるネットワークづくりだ。ソフトバンクの「10兆円ファンド:ビジョンファンド」のポートフォリオの拡大ぶりにも共通する。

■WalmartのDNVB投資先リスト
WalmartがJet.comを2016年8月に買収して以来、現在までの約2年で下記の13のDNVB企業がWalmartの傘下に入った。マーク・ローリー氏はDNVB企業の数を40社にまで引き上げる構想を発表している。DNVB企業が4社であれば気に留めないだろうが、この数が40社となれば、その威力に気づくだろう。

 

Walmartはこの新規DNVBを買収し立ち上げる事業名を「Store No.8」というプロジェクト名で進めている。下記DNVB企業を時系列で紹介する。下記のすべて事業体は、Walmartの力では獲得できなかったオンライン顧客を持ち、全てオンラインで繋がっている事に注目して欲しい。

1)靴の「シューバイ(ShoeBuy)」 2017年1月
買収金額:約77億円(7,000万ドル) フェイスブックいいね! 約30万件(以下FBと略)

2)アウトドア用品販売の「ムースジョー(Moosejaw)」 2017年2月
買収金額:約55億円(5,100万ドル) FB 約25万件

3)ビンテージ&レトロ風レディース・ファッションブランドの「モドクロス(Modcloth)」 2017年3月
買収金額推定:約55〜80億円(5,000〜7,500万ドル) FB 約163万件

4)メンズアパレル・ブランドの「ボノボス(Bonobos)」 2017年6月  FB 約40万件
買収金額:約340億円(3.1億ドル)Bonobosの共同創業者であるアンディ・ダン氏は現在、ローリ氏の直属の部下となって、買収したブランドを監督するDNVBのリーダー的な立場となっている。

5)宅配サービス「パーセル(Percel)」 2017年10月
 買収金額:不明

 

図2:Walmartが買収したDNVBの年齢別ユーザー層:ブランドの個性次第だが、若年層にシフトしている
https://www.digitalcommerce360.com/2018/10/12/walmart-ecommerce-acquisitions/

 

6)インドのEコマース最大手「フリップカート(Flipkart)」 2018年3月 FB 約920万件 

 買収金額:約1.76兆円(160億ドル)「インドのAmazon」と呼ばれる。

7)メキシコ、チリ、ラテンアメリカのグロッサリー宅配「コーナーショップ(Cornershop)」 2018年9月
 買収金額:約250億円(2.25億ドル) FB 約20万件

8)プラス・サイズブランドの「エロクイ(Eloquii)」 2018年10月
 買収金額:約110億円(1億ドル) FB 約35万件

9)ランジェリーの「ベア・ネセシティーズ(Bare Necessities)」 2018年10月
 買収金額:不明 インスタグラム約1.1万件

10)カー用品販売大手の「アドバンス・オート・パーツ(Advance Auto Parts)」との提携

11)前出、絵画販売の「アート・ドットコム(Art.com)」 2018年11月
 買収金額:不明 FB 約45万人

12)自社開発で会話形コマースの「ジェトブラック(JetBlack)」(過去6月号でも紹介済)スタートアップ企業「Rent-the-Runway」の創業者ジェニファー・フレイスをスカウトして立ち上げた。Amazonは「Amazon Lex」という名でAlexaを使った会話形コマースを立ち上げている。

 

図3:Walmartが買収したDNVBの世帯収入別ユーザー層を見ると、高収入層へシフトしている事がわかる。
https://www.digitalcommerce360.com/2018/10/12/walmart-ecommerce-acquisitions/

13)仮想現実の実験「スペイシャランド(Spatialand)」
店舗で陳列している製品で具体的な利用シーンを想像できるサービスを構想中。例えばカヤックならば、仮想世界で川を下るシーンを設定する。

WalmartがDNBVブランドを通じて「新規で獲得した顧客」は、全てオンラインで繋がっている。単純にフェイスブックのアカウントだけでも上記を合計すると、世界で1,278万件の「いいね!」を獲得している事になる。
図2:買収したDNVBの年齢別ユーザー層。若年層へのシフトの様子がうかがえる
図3:買収したDNVBの世帯収入別ユーザー層。高収入層へのシフトの様子がうかがえる

Walmartにとってオンライン上でのビジネス開拓の目的は、単なる「買収&統合」ではなく、「既存事業とのシナジー」でもない。各DNVBスタートアップの新しい・・・

 

続きはMAD MANレポートVol.49にて

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